交通事故における示談金と慰謝料の違いとは?

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損害賠償金を減額させてしまうのが過失割合です。では、自動車、自転車の運転手が不利な立場に立たせられると言われる交通事故において、歩行者に過失割合が認められることはあるのでしょうか?

 

過失割合とは

過失割合とは、交通事故当事者の過失(落ち度、責任)の程度を数値化したものです。最大10の数値を加害者と被害者で振り分けられます。たとえば、加害者である自動車の運転手が「9」、被害者である歩行者が「1」などと振り分けられるのです。

過失割合は加害者に対する損害賠償金を算定するための基礎となり、被害者の過失割合が大きければ大きいほど加害者に請求できる損害賠償金は減ります(これを過失相殺といいます)。たとえば、被害者に発生した損害額が900万円だったとしても、上記の過失割合の例だと、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償金は810万円となります(810万円=900万円-(900万円×0.1(被害者の過失割合分))。他方で、加害者である自動車の運転手が「7」、被害者である歩行者が「3」だっとしましょう。この場合、損害額は同じ900万円だったとしても、被害者が加害者に対して請求できる金額は630万円となります(630万円=900万円-(900万円×0.3(被害者の過失割合分))。

 

歩行者と過失割合

歩行者の過失割合は小さいのが基本

交通事故の場所、交通事故の状況などにもよりますが、歩行者の過失割合は小さいのが基本です。相手が自動車の運転手である場合はもちろん、自転車の運転手である場合でも同様です。これは自動車、自転車が人に危害を及ぼすおそれが高い乗り物で、歩行者以上に交通ルールを守らなければならないからです。

歩行者に過失割合が認められる場合

もっとも、歩行者であるからといって全く過失が認められないか(過失割合が「0」)といえばそうではありません。むしろ、何らかの過失が認められてしまう場合も少なくありません。また、歩行者も自動車、自転車と同様、一定の交通ルールに従う必要があり、そのルールに従わずに交通事故に遭った場合はより大きな過失割合が認められてしまう可能性があります。以下では、歩行者に過失割合が認められる可能性のある主な事故事例をご紹介します。

夜間、降雨時に歩行中の交通事故

夜間は昼間に比べて、自動車・自転車の運転手から歩行者が見えにくい状況です。したがって、自動車・自転車の運転手がより注意して運転しなければならないことはもちろんですが、歩行者もそのことを認識しつつ、注意しながら歩かなければなりません。したがって、歩行者には「0.5」程度の過失割合が認められてしまます。

信号無視して道路を横断した場合の交通事故

道路交通法では、自動車、自転車のみならず歩行者も信号表示に従わなければならないとされています。したがって、歩行者が信号表示を無視して道路を横断した場合は、歩行者により大きな過失割合が認められてしまいます。すなわち、歩行者の信号表示が「赤」の場合に、歩行者が敢えて横断歩道の横断を始めて交通事故が起きた場合の過失割合は歩行者が「7」、自動車が「3」となります。他方で、歩行者が「赤」で横断歩道の横断を開始したものの、自動車も「赤」で交差点に進入してきた場合は歩行者が「2」、自動車が「8」となります。

 

まとめ

交通事故の場所、状況などによっては、歩行者といえども一定の過失割合が認められ、損害賠償金が大きく減額されてしまう可能性もあります。上記でご紹介した例は氷山の一角で、どの程度の過失割合が認められるかは、交通事故の場所、状況などを詳細に検討してみなければ分かりません。保険会社から提示された過失割合に納得がいかない方は交通事故の専門家に相談してみましょう。

以上

 

交通事故で使える人身傷害保険と搭乗者保険、その違いは?

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交通事故に遭うと、相手からいくら賠償員を受け取れるか、相手にいくら賠償金を支払わなければならないのか、という点に焦点が行きがちです。しかし、ご自身の保険からご自身やご家族などに対して保険金が支払われる場合があることをご存知でしょうか?ご自身の保険を見直してみて「人身傷害保険」、「搭乗者保険」が付いている場合は、その可能性があります。

今回はその人身傷害保険、搭乗者保険について解説します。

 

1.人身傷害保険とは

人身傷害保険とは、交通事故でご自身(記名被保険者)及びそのご家族が怪我した際やお亡くなりになった際に補償を受けることができる保険です。保険会社により名称は異なります。

 

ここで「怪我や死亡した場合なら、相手から賠償金が支払われるはずだから、必要ないのでは?」などと疑問に思われる方がいるかもしれません。確かに、交通事故の過失割合が、あなたが「0」で加害者が「10」の場合は、加害者のみが賠償金を支払う義務を負いますから、人身傷害保険は不要とも思えます。しかし、交通事故ではあなたが意識しているかいないかにかかわらず、あなたにも何らかの過失割合(落ち度)が認められることが多いです。この場合、あなたの過失割合の分だけ賠償金が減額されてしまいますから、あなたは満足のいく賠償金を受け取れなくなる可能性があります。そこで、その減額分を補ってくれるのが人身傷害保険というわけです。つまり、人身傷害保険はあなたの過失割合にかかわらず補償してくれるという点が最大の特徴です。

また、加害者との示談交渉の進捗に関係なく補償を受けることができます。加害者から賠償金を受け取ることができるのは、早くても怪我の治療が終わった後ですから、一刻でも早く補償を受けたいという方にとっては人身傷害保険に加入しておくことはメリットといえます。

人身傷害保険で補償される損害費目は治療費、休業損害(怪我の場合)などのほか慰謝料(怪我、死亡の場合)も含まれます。

 

人身傷害保険の内容は大きく、

 

① 契約車両を運転中

② 他の車(バス、タクシーなどを含む)に乗車中

③ 歩行中、自転車に乗車中

 

に交通事故に遭い死傷した場合に補償されるものの3タイプに分けることができます。人身傷害保険に加入する場合、①ケースは必ず補償対象となりますが、検討すべきは②、③のケースを補償対象とするかどうかです。②、③を補償対象とする場合はその分保険料が上がりますので、予算や生活状況などを考慮して補償対象に含めるかどうか検討してみましょう。

 

2.搭乗者保険とは

搭乗者保険とは、交通事故で運転者を含めた契約車両の搭乗者が怪我した際やお亡くなりになった際に補償を受けることができる保険です。

死傷の際に補償を受けることができるという点、また、過失割合に関係なく補償を受けることができるという点では人身傷害保険と同じです。補償される保険金の名目は、搭乗者が怪我した場合は医療保険金、死亡した場合は死亡保険金、後遺障害が残った場合は後遺障害保険金です。

 

 

他方で、搭乗者保険と人身傷害保険は、

 

・人身傷害保険は契約車両の運転中、他の車両に乗車中、歩行中などでも補償されるのに対し、搭乗者保険は契約車両に搭乗中の場合に限定される

・人身傷害保険は実際に生じた損害分を補償する保険であるのに対して、搭乗者保険は契約時にあらかじめ決定した金額が支払われる

・人身傷害保険は死亡時の保険金額が高額なのに対し、搭乗者保険は人身傷害保険に比べ低額

 

などの違いがあります。

 

3.まとめ

人身傷害保険、搭乗者保険ともに一長一短があります。双方に加入すると当然ながら保険料は高くなります。必要性をよく見極めながら賢い選択をしたいものです。また、現在ご加入中の方は、保険を使えない場合を約款などで今一度確認されておくことをお勧めいたします。

                                     以上

 

交通事故における介護費、介護費を受け取るための条件とは?

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不幸にして交通事故により介護を要するほどの重傷を負った場合は、介護費の請求も検討しなければなりません。今回は、そもそもこの介護費とは何かという点をご説明した上で、

 

・介護費を受け取るための条件

・受け取れる介護費の目安

 

について解説してまいります。

 

1.交通事故における介護費とは

交通事故における介護費とは、端的にいうと、症状固定後の将来介護費のことです。

「症状固定」とは、医師から「症状(後遺障害)は残っているけれども、これ以上治療を継続しても症状が改善する見込みはない」と診断されたことを意味しています。つまり、加害者に介護費を請求するためには、

 

☑ 症状固定後も「後遺障害」が残っていること

☑ その後遺障害が「介護の必要性」が認められる程度のものであること

 

という条件を満たすことが大前提となります。

 

2.介護費を受け取るための条件

⑴ 後遺障害等級認定の申請を行う

まずは、後遺障害等級認定の申請を行います。

なお、後遺障害等級認定の申請は介護費のみならず、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を受け取るためにも必要な手続きです。

後遺障害等級表には「介護を要する後遺障害の場合」として後遺障害等級1級1、2号及び2級1、2号の等級が設けられています。それぞれの具体的な症状(状態)は以下のとおりです。

 

後遺障害等級

1級1号:脳や神経に深刻なダメージを負い、常に介護が必要な状態

1級2号:臓器への深刻なダメージを負い、常に介護が必要な状態

2級2号:脳や神経にダメージを負い、随時介護が必要な状態

2級2号:臓器へのダメージを負い、随時介護が必要な状態

 

申請の結果、介護を要する後遺障害等級の1級1、2号又は2級1、2号の認

定を受けることができれば「介護の必要性」は優に認められ、加害者に対して

介護費を請求できるでしょう。

⑵ 介護の必要性を具体的に証明する

申請の結果、認定を受けた後遺障害等級が上記の後遺障害等級1級1、2号、

2級1、2号以外の場合でも、「介護の必要性」を具体的に証明できれば介護

費を受け取ることができる可能性はあります。

もっとも、そのためには、ご家族、ご親族など要介護者を日頃からよく観察で

きる方が要介護者の状態(転倒の頻度、歩行・昇降や体位変換、排尿・排泄、

食事、衣服の脱着、入浴、洗濯を自力で行えるか否かなど)を常日頃からよく

観察し、日記などに記録しておくことが必要です。日記や医師、ご家族以外が

介護をする場合は職業付添人(介護士、ホームヘルパーなど)の証言の内容が

介護の必要性を立証する際には必要となります。

 

3.受け取れる介護費の目安

介護費は

 

【日額】×365(日)×【生存可能期間】

 

で計算します。

【日額】は、「介護する人(ご家族かご家族以外の人(職業付添人)か)」、「要介護者の年齢」、「後遺障害の程度」などによって異なります。

【生存可能期間】は、厚生労働省が公表している簡易生命表の平均余命が参考とされます。実際には被害者側と加害者側でこの平均余命の認識に齟齬があり、裁判にまで発展するケースもよくあります。

なお、介護費については、将来に受け取れる金額を前もって一括で受け取るものですから、実際に受け取る金額は中間利息を控除した(差し引いた)額となります。

 

4.まとめ

介護費とは症状固定後の将来介護費のことですから、介護費を受け取るためには、介護費を受け取るためには症状固定後に後遺障害が残ること、その後遺障害が「介護の必要性」が認められる程度のものであることが必要です。

後遺障害等級認定申請の結果、「介護を要する後遺障害の場合」としての後遺障害等級1級1、2号、あるいは2級1、2号の等級が認定されれば介護の必要性は認められ、介護費を受け取れるでしょう。また、それ以外の等級の場合でも介護の必要性を具体的に証明できれば介護費を受け取れる可能性はあります。あとは介護費を受け取れるとして、いくら受け取れるのか、という問題に争点が移ります。

                                                                                                                                        以上

 

交通事故直後に示談してはいけない理由

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交通事故の被害に遭った場合、多くの方が加害者との示談で解決します。しかし、示談はいつでも行えばよいというわけではありません。

今回は、

・交通事故における示談の意味

・交通事故直後に示談してはいけない理由

・交通事故の示談のタイミング

について解説します。

 1.交通事故における示談の意味

交通事故における示談とは、被害者と加害者とが

 

☑ 被害者に発生した損害費目

☑ 損害費目ごとに発生する金額

 

について、裁判手続きによらない(話し合い)で決めることです。法律上は「和解」といいます(民法695条)。

通常は、取り決めた内容を書面(書面の表題は合意書、和解契約書など)に残し、当事者が書面にサインした段階で示談(和解)が成立します。

ここで注意しなければならない点は、書面にサインした時点で一定程度の確率で、加害者から示談金(賠償金)を支払われることが約束される一方で、

 

いったん取り決めた金額以上の金額を受け取ることができなくなってしまう

 

という点です。つまり、示談するということは、

 

本来、被害者が加害者に対して請求できる示談金を自ら放棄してしまうこと

 

を意味しているのです。

 

2.交通事故直後に示談してはいけない理由

交通事故直後に示談してはいけない理由としては、加害者に対して請求できる示談金を自ら放棄してしまうことのほかにも以下の点を挙げることができます。

⑴ 紛争の火種になりかねない

交通事故直後に示談したとしても、交通事故の示談交渉に慣れていないがために、そもそも当事者間で何を合意したのかその内容が曖昧という場合が多いかと思われます。そして、合意した内容が曖昧だからこそ当事者間で行き違いが生じやすく、その結果、適切な示談金を受け取れない、受け取るまでの期間が長期化するなどの事態へと発展することが懸念されます。

⑵ 交通事故直後は怪我の内容、程度が不明

また、交通事故直後は怪我の内容、程度が不明です。

たとえ通事故直後は怪我の症状が軽くても、数日経って重くなることも十分考えられます。症状が重くなればなるほど、その分、受け取ることができる示談金は増額する可能性があります。しかし、交通事故直後に示談してしまうと、本来受け取ることができたはずの示談金を放棄してしまうことにも繋がりかねません。

⑶ 交通事故直後は事故内容、過失割合が不明

さらに、交通事故直後は事故内容が明らかとなっていません。事故内容が明らかでないということは、示談金算定の基礎となる過失割合も決まっていないということです。しかし、交通事故直後に示談してしまうと、本当はご自身に非(落ち度、過失)がない点も非があると認めたと加害者に受け止められてしまう可能性があります。その結果、過失割合を加算され、示談金を減額されてしまうことにも繋がりかねません。

 

3.交通事故の示談のタイミング

交通事故直後に示談してはならないとしたら、いつ示談すべきなのでしょうか?

⑴ 後遺障害が残らない場合

後遺障害が残らない場合は、怪我の治療が終わった後です。

怪我の治療が終わった後であれば、傷害分と言われる「治療費」、「休業損害」、「傷害慰謝料」などの損害費目の金額を確定させることができるからです。また、この段階になれば交通事故内容も明らかとなり、過失割合も確定させることができるでしょう。

⑵ 後遺障害が残る場合

後遺障害が残る可能性のある場合は、後遺障害等級認定のための申請の結果が出た後です。

後遺障害が残る可能性がある場合、後遺障害分と言われる「後遺障害慰謝料」、「後遺障害逸失利益」を示談金に含めることができる可能性があるところ、申請を経てみなければ示談金の額を確定させることができないからです。

 

4.まとめ

示談は、後遺障害が残らない場合は「怪我の治療が終わった後」、後遺障害が残る可能性がある場合は「後遺障害等級認定のための申請の結果が出た後」に行いましょう。

                                     以上

 

交通事故紛争処理センターとは?特徴や利用手続きについて解説

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 交通事故の紛争を解決するための手段として、交通事故紛争処理センターを利用する方法があります。今回は、あまり知られていない交通事故紛争処理センターの特徴や利用手続きについて解説します。

 

1.交通事故の解決方法

 

そもそも交通事故の解決方法には大きく分けて「(示談)交渉(話し合い)」と「裁判」があります。

まず、被害者(あるいはその代理人弁護士)が加害者側(加害者の保険会社、加害者の代理人弁護士あるいは加害者本人)と(示談)交渉し、それでも折り合いがつかなければ裁判という流れです。

しかし、(示談)交渉と裁判との間にあるともいうべき解決法が「交通事故紛争処理センターを利用する」という解決法です。

 

2.交通事故紛争処理センターとは

 

交通事故紛争処理センターとは、一言でいうと、示談を促してくれる機関です。

したがって、交通事故処理センターは示談できる状態とならない限り利用できないことに注意が必要です。「示談できる状態」とは「損害賠償金を確定できる状態」ということですから、たとえば、症状固定前の治療中の段階、症状固定後の後遺障害等級認定の申請を行っている段階では交通事故紛争処理センターを使うことはできません。

 

交通事故処理センターは全国11か所(東京本部、札幌支部、仙台支部、名古屋支部、大阪支部、広島支部、高松支部、福岡支部、さいたま相談室、金沢相談室、静岡相談室)に設けられています。

 

www.jcstad.or.jp

 

 

3.交通事故紛争処理センターの特徴(メリット)

 

交通事故紛争処理センターの特徴(メリット)は以下のとおりです。

⑴ 利用にかかる費用は無料

 

示談に向けた法律相談、示談のあっ旋、あっ旋が不調に終わった場合の審査手続にかかる費用は無料です。

⑵ スピーディーに解決できる

 

通常の示談交渉よりかは時間がかかりますが、裁判よりかは早く解決に至ることが可能です。

⑶ 示談金(損害賠償金)を増額できる可能性がある

 

示談あっ旋の際に提示される示談金は、裁判所(弁護士)基準という慰謝料の算定基準の中でもっとも高額となりうる基準で算定されるからです。

⑷ 第三者が間に入り、公平・中立な判断を得られる

 

通常の示談交渉だと「被害者VS加害者」と構図ですが、センター利用の場合、その間にセンターから委託を受けた弁護士や審査員が入ります。そして、この公平・中立な弁護士や審査員から妥当な判断を得られやすくなります。

⑸ 保険会社は審査結果に拘束される

 

手続きが示談あっ旋から審査手続に移行し、審査結果が出た場合は、保険会社はその結果を尊重する義務があります。

 

4.交通事故紛争処理センターの利用手続き

 

交通事故紛争処理センターの利用手続きは以下のとおりです。

⑴ 利用の予約

 

利用するセンターへ電話し、手続を利用したい旨を伝え、相談日時の予約を入れます。

⑵ 必要書類の準備、利用申込書への記入

 

センターから利用申込書が送られてきますから、必要事項を記入します。また、同時に必要書類を準備します。

⑶ 法律相談

 

相談日時に利用申込書、必要書類等をもってセンターへ行きます。そこで、示談あっ旋を前提として法律相談を受けます。

⑷ 示談あっ旋

 

相談を受けた弁護士(相談担当弁護士)が、示談あっ旋が適当だと判断した場合は、あっ旋手続きに移行します。あっ旋手続きでは、被害者、相談弁護士、保険会社の担当者の3者で示談に向けた話し合いをします。ここで、相談担当弁護士が提案した示談案に合意した場合は示談書を取り交わし、手続きは終了です。

⑸ 審査手続

 

示談案に納得がいかず、あっ旋が不調に終わった場合には審査手続へ移行します。審査手続では審査委員による裁定が下され、被害者が納得した場合には示談書を取り交わし、手続きは終了です(納得しない場合は示談不成立として手続き終了です)。

 

5.おわりに

 

交通事故紛争処理センターの利用は、交通事故紛争を解決するための手段としてあまり知られていません。しかし、前述のとおり、利用には大きなメリットがありますから、一度、利用を検討されてみてはいかがでしょうか。

                                                                                                                                      

実況見分調書とは?作成目的、取り寄せ先等を解説

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人身事故で必ず行われるのが警察の実況見分です。そこで、今回は、警察が作成する実況見分調書について解説いたします。

 

1.実況見分調書とは

 

交通事故における実況見分調書とは、警察が交通事故現場で交通事故状況を見分(見たり、聴いたり)した結果を記載した書面のことをいいます。交通事故状況といいますが、具体的には

 

・見分の日時、場所

・見分場所

・交通事故現場の道路状況

・加害者・被害者の車の状況

・立会人(加害者、被害者、目撃者)の指示説明

が記載されており、交通事故状況をよく視覚化するため、実況見分調書には

 

・交通事故現場見取り図や写真

 

などが添付されています。

 

2.実況見分調書を作成する目的

 

警察が実況見分調書を作成する目的は、刑事事件における交通事故状況の立証のためです。

警察は民事不介入の立場ですから、実況見分調書を加害者に対する損害賠償請求のため、つまり民事事件のために作成しているわけではありません。また、交通事故状況は加害者や被害者の話のみならず、図や写真などを使うことによって視覚的に表現した方が分かりやすいといえます。

そこで、警察は刑事事件において被疑者、被告人の交通事故状況の立証を容易にするために実況見分調書を作成しているのです。

 

3.民事事件と実況見分調書

 

もっとも、民事事件において、実況見分調書が全く活用されないかといえば、そういうわけではありません。

たとえば、民事事件においては、

 

被害者側と加害者側との間で過失割合を巡って争いが生じている場合

 

に、交通事故状況を確認したい、というときに実況見分調書が活用されます

 

4.実況見分調書の取り寄せ先、取り寄せ方法

 

実況見分調書は、加害者(刑事事件では被疑者・被告人)の刑事手続きがどの段階にあるかによって取り寄せ方や取り寄せ方法などが異なります。

⑴ 加害者に対して刑事処分(起訴、不起訴)が下される前の段階

 

 

この段階では、まだ取り寄せることができません。

 

⑵ 加害者の刑事処分が不起訴処分となった後

 

不起訴処分となった刑事記録(不起訴記録)は警察から事件が送致された送致先の「検察庁」で保管されています。不起訴記録は不開示が原則ですが、民事の損害賠償請求のためなど、特定の目的が認められる場合には実況見分調書を取り寄せることが可能です。取り寄せる方法は以下のとおりです。

① 弁護士から検察庁への照会(弁護士法23条照会)による方法

② 被害者本人が検察庁へ出向き申請する方法

③ 代理人弁護士又は事務員が検察庁へ出向き取り寄せる方法

⑶ 加害者が起訴された後

 

検察官が加害者を起訴した後、裁判所に刑事記録を提出した後、刑事記録は「裁判所」あります。被害者、被害者遺族、代理人弁護士は裁判所に対して刑事記録の謄写申請を行って実況見分調書を取り寄せます。

⑷ 加害者の刑事裁判が確定した後

 

加害者に判決が下され、刑事裁判が確定した後は、刑事記録は第一審裁判所に対応する「検察庁」で保管されます。そして、以下の方法により、検察庁に対して申請を行って実況見分調書を取り寄せます。

① 被害者本人が検察庁へ出向き申請する方法

② 代理人弁護士又は事務員が検察庁へ出向き申請する方法

 

5.まとめ

 

加害者に対する害賠償請求する民事の場面では、実況見分調書は、過失割合などを巡って争いが生じ、交通事故状況を詳細に検討しなければならない場合に必要となる書類です。実況見分調書は刑事訴追のため警察が作成するものですが、刑事事件の段階によって申請先が「検察庁」あるいは「裁判所」となります。実況見分調書を取り寄せる際は、まずは加害者の刑事手続きがどの段階まで進んでいるのか確認する必要があります。

交通事故における示談金と慰謝料の違いとは?

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交通事故においては必ず示談金、慰謝料の額がいくらとなるか、という点が一つの関心事でもあり争点でもあります。しかし、この示談金と慰謝料を明確に区別できている方はどれほどおられるでしょうか?

示談金と慰謝料は別物ですが、両者を同じものと考えていると大きな落とし穴にはまり、本来受け取れるはずの賠償金を受け取れない可能性もでてきます。

そこで、今回は示談金と慰謝料の違いについて解説します。

 

1.慰謝料とは

 

慰謝料とは、交通事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。交通事故の慰謝料は傷害(入通院)慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡による慰謝料があり、これらすべては「損害賠償金」の「費目」の一部です。

傷害(入通院)慰謝料は症状固定(怪我の症状が改善する見込みがなくなると判断される)前に、何日、どの程度の期間、病院へ通院するかなどによって額が異なってきます。後遺障害慰謝料は、症状固定後に後遺障害等級認定の申請を行い、認知を受けた等級などによって額が異なってきます。

 

2.示談金とは

 

示談金とは、示談交渉によって得た損害賠償金のことです。「1」でご説明したとおり、傷害(入通院)慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡による慰謝料は損害賠償金の費目の一部ですから、これら3つの慰謝料は示談金の一部、ということになります。

示談金はつまりは損害賠償金ですから、損害の費目は慰謝料のほかにも以下のものがあります。まず、人的損害の費目は財産的損害と精神的損害に区別されます。そして、財産的損害は治療費などの積極損害と、休業損害、後遺障害逸失利益、死亡による逸失利益の消極損害があります。精神的損害は先ほどご紹介した3つの慰謝料です。次に、人的損害に対して物的損害があります。物的損害にも財産的損害と意外かもしれませんが精神的損害があります。そして、財産的損害は修理代などの積極損害と休車損害などの消極損害があります。まとめると以下のとおりとなります。

 

【損害賠償金の主な損害費目】

  • 人的損害

・財産的損害

→積極損害

 →治療費など

→消極損害

 →休業損害

 →後遺障害逸失利益

 →死亡による逸失利益

・精神的損害

→傷害(入通院)慰謝料

→後遺障害慰謝料

→死亡慰謝料

  • 物的損害

・財産的損害

→積極損害

 →修理代など

→消極損害

 →休車損害など

・精神的損害

 

示談をする際は、上記損害賠償金の損害費目がきちんと含まれており、金額が正しいのか細かくチェックした上で示談書(和解契約書)にサインする必要があります

 

3.示談はいつするの?示談金はいつ確定させるの?

 

示談では確定された全ての損害費目の損害金の金額をチェックする必要があります。したがって、示談をするのは全ての損害費目の損害金が確定した後、ということになります。たまに、早く交通事故のことを忘れたいから手っ取り早く交通事故直後に示談したい、という方がおられます。しかし、交通事故直後は当然のことながら賠償金を確定することができませんから、交通事故直後に加害者と示談することだけは避けなければなりません。

では、全ての損害費目の損害金が確定した後、とは具体的にいつかといえば、傷害の場合で、後遺障害が残らない場合は

 

治療(通院)が終わった後(症状固定の後)

 

又は、後遺障害が残った場合は

 

後遺障害等級認定が確定した後

 

ということになります。前者の場合は、傷害費目と言われる治療費、休業損害、傷害(入通院)慰謝料につき、基本的に症状固定までには確定することができるからです。他方、後者の場合、後遺障害等級認定を受けてみなければ損害金を確定することができないからです。後遺障害等級を受けてみなければ損害金を確定できない費目として、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料などがあります。

 

 

しっかり理解していないと本来受け取れるはずの賠償金を受け取れない可能性もありますので、気を付けてくださいね。

                                                                                                      

                                                                                                                            

 

交通事故の治療費はどのように請求するのか?

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交通事故に遭った場合、誰に、どのように治療費を請求するのか、どのような流れで支払われるのか疑問に思われることと思います。

そこで、今回は、以下の3つのケースごとに、治療費をどのように請求するのかについて解説したいと思います。

 

1.加害者が任意保険にも自賠責保険にも加入している場合

 

加害者が任意保険にも自賠責保険にも加入している場合は、加害者の任意保険会社が病院に治療費を支払ってくれる場合と支払ってくれない場合があります。

⑴ 任意保険会社が病院に治療費を支払ってくれる場合

 

この場合は、任意保険会社が被害者へ「病院への医療照会に関する同意書」、「一括対応に関する同意書」が送付されてきます。そして、被害者がこれにサインし任意保険会社へ返送することにより、任意保険会社が「一括対応に関する同意書」に基づいて病院へ治療費を支払います。一括対応とは、任意保険会社が自賠責保険会社の負担部分も含めて一括して支払いに対応します、という意味です。また、任意保険会社は病院に対し、逐一、被害者の怪我の状況、回復具合等を確認しなければ病院にいくら治療費を支払えばよいのか分からないことから、被害者から医療照会に関する同意書も取り付けるようにしているのです。

もっとも、任意保険会社から病院へ治療費が支払われるまでにはブランクがあります。しかし、病院を受診するまでの間に、あらかじめ任意保険会社から一括対応する旨を言われている場合は、病院を受診した際に「加害者の任意保険会社が治療費を支払うことになっている。」と伝えれば治療費を負担せずに受診できるでしょう。また、対応が早い任意保険会社であれば先に病院へ治療費を支払う旨を伝えている場合もあります。その場合も、治療費を負担することなく受診できるでしょう。他方で、任意保険会社の対応が何らされていない場合は、通常、被害者が治療費を立て替えることが多いかと思います。その場合は、必ず健康保険証を使って受診しましょう。また、後日、加害者側に立て替えた分を請求するために領収書は必ず保管しておきます。国民健康保険なら市区町村の窓口で、会社員・公務員で健康保険なら勤務先の人事係で、「第三者行為による傷害の届出」を保険者宛に提出してもらいましょう。

⑵ 任意保険会社が病院に治療費を支払ってくれない場合

 

交通事故の過失割合を巡って加害者と争っている場合などは、任意保険会社が病院に治療費を支払ってくれない場合があります。この場合は、まず加害者の自賠責保険会社に対して被害者請求することが考えられます。また、被害者が加入している任意保険を確認してみましょう。そして、人身傷害保険特約という特約がついている場合は過失割合に関係なく、ご自身の保険から保険金が支払われます。特約を使うことによって等級が下がることはありませんから、ぜひ検討してみましょう。

 

2.加害者が自賠責保険にのみ加入している場合(任意保険に加入していない場合)

 

加害者が自賠責保険にしか加入していない場合は、まずは被害者が治療費を充て換え、後日、自賠責保険会社に対して被害者請求して立て替えた分を取り返す必要があるでしょう。また、先ほど触れた人身傷害保険を使うこともできます。しかし、自賠責保険で賄えるのは傷害(治療費、休業損害、傷害慰謝料)の場合、120万円までですし、自賠責保険、人身傷害保険では物損の損害を賄うことができません。その場合は、加害者に直接請求することも検討します。

 3・加害者が任意保険にも自賠責保険にも加入していない場合

 

 

この場合は、加害者本人に直接請求するしかありません。しかし、加害者に賠償金を支払えるだけの資力があるかどうかは不透明です。そのときの場合に備えて、ご自身の任意保険で無保険車傷害特約を付けておきましょう。この特約を付けていれば、仮に加害者の車が無保険車でもご自身の保険会社から保険金を受け取ることが可能となり、実質賠償を受けたのと同じ状態となるからです。

 

                                                                                                      

治療費をどのように請求するのか参考になりましたら幸いです。